短歌
恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の死 ひたすら『恋人の』を繰り返した後『死』という単純な形をしている。音を重視して読むと「コイビト」「コイ」「ヒト」の三つから構成された短歌としても取れるが、意味のない文字の羅列になる、四句目五句目間の「の…
まず、タイトルだが、五七五で、川柳というか、短歌の上の句の形である。『まみ』という固有名詞を持つ人物が主役の短歌集で、 手紙が好きであることから、対人コミュニケーションより筆記を通すような間接的な物を好むように見える。引っ越しから生活環境を…
高速道路の水たまりに口づけてきみの寝顔を思う八月 『高速道/路の水たまり』という六音の字余りから始まり、このあたりの歌の共通点。『高速道路の水たまり』は決して触れることのできないもののように登場し、これまで描かれていたが、この歌ではそれに口…
みずたまりに波紋拡げて溺れてるミクロサイズのイエス・キリスト 主体が水たまりの波紋に気が付き、その発生源は溺れてもがくイエス・キリストであるという説を唱えている、という内容。「水」「イエス・キリスト」というと、湖を歩いた奇跡が思い起こされる…
アンデルセンの焼きたてフランスパン背負ってNASAのセキュリティを突破せよ NASAか海か、どちらを目的にしていたのか、それらは両立しているのか。いい加減なままに進行していた。前首では『海へ10キロ』だったがこの歌ではNASAに着いている。…
路面には散らばる光 あのなかのひとつで蟻が溺れています 風景描写から二首前の歌を受けての反応。「溺れる蟻」への反応は他人事であり、実際に確認することもなく、そのこと自体が考えに影響しているわけでもない。その反応の様子は、彼自身もまたただ事実…
「みずたまりで蟻が溺れています」って高速道路の電光掲示 まだ高速道路の途中だったらしい。NASAがまだ遠い位置にあるのであれば、前歌での行動の奇妙さが増す。渋滞や事故の情報が流れるべき掲示板で蟻が溺れていることが表示されている、との内容。現…
一連を通してみると、物語が存在し、それが極めて重要な意味を持つ連作であることが少なくともわたしにとって理解ができた、という意味ではこの『ラブ・ハイウェイ』が初めてなのですが、そういった感想部分については最後まで終わった後にまとめることにし…
延滞のホラービデオが散らばった部屋の扉を閉ざして海へ 海へ向かうべく外へ踏み出し、扉を閉めている。『延滞のホラービデオ』は相手とともに見るつもりだったが、すれ違うようになって見ないままにしていたことを示す。そうなっている状況を受け入れること…
貸靴に消毒スプレー吹きつけて海への旅費を作る七月 海への旅行を決定したようで、旅費をためるためにアルバイトをしているらしい。前歌まででは自分の心理状態や周りの環境が主だったが、それに対する行動を決め、動き出している。相手のいる海へ向かうこと…
全身に二人の指紋を光らせて調律師をみたことがないピアノ 思い出に浸っている歌。ピアノを二人で触っていたことやシーツで『調律師』のことを言ってふざけあっていたことを回想している。調律師は6つ前の歌にある。 その前回の調律師の歌や『全身に』『指紋…
Happy Birthday dear Mark & Izumiって歌うのかNASAのお誕生日会 『Happy~Izumi』までの部分は本では横書きを縦に並べた形になっている。短歌が本では縦書きで、このブログでは横書きになっていることが影響している。本来の作品の方が視覚的に印象が強…
きみ去りし朝のシーツにきらきらと蛍光ペンの「NASAへゆきます」 『きらきらと』とあるように、『きみ』はNASAへ行くことについて前向きな気持ちを持っている。『蛍光ペン』という伝達のために使うにはやや適さない筆記物が用いられているのは、『き…
ピアノの調律師が来たよ、と云いあってシーツの中で息をころせり 『シーツの下』で、じゃれるなりセックスなりをしている様子。句点はひそひそと話し合っている様子の表現だろうか。『云いあって』から両人が盛り上がっているように見える。 一、二句目では…
恋びとの腋剃りあげて口づける夜明けのなかに夏が来ている 恋人との生活の様子と、世界の時間が過ぎていき、季節が変わっていくということを描写している。『腋剃りながらくちづける』と慣れを感じ出していて、自然にそういった状態へとなったというような描…
情報処理試験会場にぼくたちはキューピーみたいな髪型でゆく 最初から漢字をひたすら並べ堅苦しさを出している。『キューピー』は常に笑顔の不気味な人形で、そういった物になろうとする『ぼくたち』もまた不気味だ、という歌。不気味ではあるが、常識的に考…
冷蔵庫が息づく夜にお互いの本のページがめくられる音 ささいな音にフォーカスすることで静寂を強調する手法。読書も静けさを前提とした行為である。二人の気づかいのいらない関係が見える。意識しつつも思考の中心に置かれることはなく、『冷蔵庫』の音と同…
手紙魔まみがありますが、そちらは全体で読んでいくので飛ばして『ラインマーカーズ』の最後の連作の感想です。 ラヴ・ハイウェイ 目が覚めたとき鼻先にくるくるとシャボンの球が回る日曜 おこしに来た者がシャボン玉を吹いていたという感じか。目覚め、シャ…
指さしてごらん、なんでも教えるよ、それは冷ぞう庫つめたい箱 一、二句目で句点と句の切れ目がずれ、リズムに引っかかりができる。四句、五句目でも「庫」が微妙な位置に来ることで、優しく話しかける口調で物を説明している。相手は出会ったばかりの子供だ…
月光よ 明智に化けて微笑めば明智夫人が微笑み返す 明智夫人の「月光よ」発言→化けた主体がほほ笑む→夫人が微笑み返す、という流れか。主体の言葉とも取れなくないが、「よ」と女言葉なので上のようにとる。化けている主体と化かされている夫人の構図が反復…
フランスのフリスクだけはくわせるな/くるいはじめるしまうまのしま 「フ」「ス」「く」「し」「ま」などの音の繰り返しで奇妙なリズムができているのが特徴。『くわせるな』の後に『くるいはじめる』ときて禁止を破った殻のようにみえる。ひらがなとカタカ…
血まみれの歯ブラシを手に近づけばぴたりととまる夜の噴水 『血まみれの歯ブラシ』は歯茎を痛めすぎたときに発生する。『血まみれ』で引き寄せてから大したことがないとネタバレで落とす。センサーに反応するものでは動き始めたりすることが多い、というとこ…
縞馬のようにきれいな夜が来て恋人たちの耳噛み千切る 音が二度重なっている点が多く、歯切れがよい。「ま」「よ」「る」「き」「み」など。技術的面だけでなく、歌の内容も本歌中にあるように『きれいな』ものであり、作中主体のようなものをはっきりおかな…
バットマン交通事故死同乗者ロビン永久記憶喪失 ロビンはアメリカンコミック『バットマン』の主役であるバットマンの相棒。 アメリカンコミックの主要キャラクターの部分がカタカナ、出来事部分が漢字という構成。重要な情報を短くインパクトをもって伝える…
入道雲に向かって足を投げだして天才蟻の話をしたね 『入道雲』『天才蟻』といった自然が中心にあり、『したね』という親しみを込めた口語が思い出という感を出す。『雲』『足を投げだして』『蟻』など自由でのびのびとした感も高い。 「自然」「思い出」「…
まぼろしの父を想いて羚羊の純白の胸にむけるリモコン 羚羊はオリックス、ヌー、カモシカなどの総称。ここではカモシカか。 『想いて』は父にリモコンをいじる癖があったのか、羚羊に父が似ていたのか。羚羊が珍しい生き物であることと『まぼろし』がかかっ…
讃美歌を絶叫しつつゆらゆらとスーパーマンが空をあゆめり 「スーパーマン」は物理的腕力によって人々を救済する存在。その彼が『讃美歌』という神を讃えるために『絶叫』している。『ゆらゆら』『あゆめり』という語から疲れているような雰囲気があり、疲れ…
セロテープで直した眼鏡を掛け続けクラスメートを愛するタイプ セロテープで眼鏡を直すという行為は、眼鏡屋で直すという手段をとらない点では横着であり、新しくしない点ではケチであり、まともでない直し方である点からは不器用であるという印象。それを平…
俺の眼を覗く警察官の腰周りに黒いものがいろいろ 『眼』で思い出すのが仔猫、寄生虫の歌で、ドラックの雰囲気があるものだった。こちらも警官から何かしら疑いを持たれている様子であり、目の焦点が定まっているか見ている、ドラック関連であると解釈した。…
にょにょーんとピザのチーズを曳きながらユダとイエスのくすくす笑い 『ピザのチーズ』と『ユダとイエス』のアンバランスが特徴。身近な食べものと遠い昔の異国の偉人。ともに外国のものだが『ピザ』と『イエス』らに直接の関係はなかっただろう。Wikipedia…