巣/人生の意味/植毛

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手紙魔まみ感想227228

夜が宇宙とつながりやすいことをさしひいても途方にくれすぎるわね

 『さしひいても』前までの前提も実感に逆らい、破調もあいまって不確かで分かりづらいものになる。一方、『途方にくれすぎるわね』は理解の効く感情であり、前半部のわかりにくさがこちらのわかりやすさを強調する。

 

「不確か」「途方にくれる」

 

窓のひとつにまたがればきらきらとすべてをゆるす手紙になった

 

 窓のひとつにまたがればまでの前提も実感に分かりづらく、破調があるということで前歌と共通する。『すべてをゆるす』がこの歌のメインと思われる。『すべてをゆるす』こと、または『手紙になる』ことが『まみ』にとっての願望、テーマだったのかもしれない。

 『きらきらと』も光や星を連想させ、前歌とのつながりを思わせる。

「願望」

手紙魔まみ感想225226

大好きな先生が書いてくれたからMは愛するMのカルテを
 
 『大好きな先生』という他人を理由としての、屈折した自己愛である。素直に自分を受け入れることはできないが、『カルテ』に関してはやっていくきもちがあり、少しずつ前進したいのかもしれない。
 
「自己愛」
 

(・・リリン)と呼ぶ声がした 云うことをきかないヒトデを叱っていたら
 
 『ヒトデ』を隠してみたときに入りそうに思うのは、人の属性(妹、客、子供など)かウサギなんかが来そうな気がするが、ヒトデである。人に近づいていく意識なんだろうか。『・・リリン』も独特の出だしである。
 
『声』

手紙魔まみ感想223224

拳大の蟻が寝息をたてながら囓りつづけるわたしの林檎
 
 林檎というとキリスト教で知恵の実だとか言われ、次の歌にも宗教色があるのでその連想は無視できないと思う。とてもデカい蟻が当然のように「わたしの」林檎を齧る様子は異様だが、落ち着きをもってそれを眺めていて、当然のことだと私は感じている。何か重要なものが異様でグロテクスな存在に奪われるのを受け入れる落ち着きが核だろうか。
 

 

「異様」「落ち着き」「受け入れ」
 
 
その答はイエス、と不意に燃えあがる銀毛のイエス猫を抱けば
 
 前がはいで後ろがジーザスと思われる。
 異常、宗教色、動物など前歌と共通するテーマがある。ジーザスが主役なのが最も違うところだろうか。『イエス』の意味の重複のギャグ、燃え上がりの暴力味み、それをおいて猫を抱く優しみ?
 「イエス猫」で検索するとあまりにもしょうもない世界が開けていた。
 
「優しみ」「不意」

うた~ウパ~

モノリスで作られた感情は
再現可能です
大事にしないでください
モノリスで作られた感情は
見られたがり屋です
誰か受け止めてください
モノリスで作られた感情は
再生不能です
記録をつけてください

手紙魔まみ感想221・222

ドラキュラには花嫁が必要だから、それは私にちがいないから
 
 『私』の重要視ということが見られるが、ドラキュラの存在という前提の前提が架空ということで断定が拠り所のないものになっている、という歌。上の句は定型から曖昧に逸脱していて、架空性に上乗せになる。
 
「架空」「自己重要視」
 
 
 
わからない比べられないでもたぶんすごく寒くて死ぬひとみたい
 
 わからなかったり比べられないことを散々前までやっていたのでは、ということに今一度立ち戻り、正直に白状し、『でもたぶん』という曖昧であるゆえに正直な前置きの後に実際には見たこともやったこともない『すごく寒くて死ぬ人』という直喩。直喩も比喩であることを隠そうとしないという意味で正直と言える表現かもしれない。
 
「正直」

手紙魔まみ感想219・220

顔中にスパンコールを鏤
ちりば
めて破産するまで月への電話
 
 スパンコールは服などの飾りに付ける小銭状の金属らしい。
 『スパンコール』『月への電話』といった無駄によって『破産』することを目指している。自己破壊願望の系統だろうか。現実性は全く薄いため、そういった妄想をすること、程度にとどまるだろう。月は昔から憧れのような感情が向かったりするものでもあったということもあるかもしれない。
 
「無駄」「破滅願望」
 
 
 
なれというなら、妹にでも姪にでもハートの9にでもなるけれど
 
 『なれというなら』という受け身の姿勢と、他との関連を表す『妹』『姪』番号でしかない『ハートの9』といった語で、徹底的に受け身である。自分に対して冷めた目線で物を見ているのだろう。『けれど』としてそのような要望を受けることがないことも自覚している。
 
「冷静」「受け身」

ぼくと初音ミク

「やりたいことなら何でもやればいいのよ」
と大人は言うけれど、私は大人になれなかったのでやりたいことは何もなかった。小説を書きたいと思っていた頃もあった、でも私の描く者らに目的意識は存在しない様だった。ただ飯を食っては寝て、家から出ようともしない。やりたいことなら何でもよいと開き直ろうにも、握りつぶされてしまうので駄目だ。崩れカスを眺めていると眠たくなって、寝るのは飽きなくて悪くなかった。
 ここに初音ミクがある。電子歌手ではなく、初音ミクを模した1/1人形だ。精巧に絵を再現したような、それでいて三次元的に存在感に、違和感のないフィギュア。初音ミク屋をやっていたおじに、廃業の際に押し付けられた……実際嬉しかったが、気恥ずかしく言うタイミングを逃した。嗜好が知られたのかを不思議がる必要はなかった。年頃の男児にとって、初音ミクが優れた性の対象であることは自明なのだから。
 初音ミクの左腕を握り、力を込めてへし折る。彼女は最新の形状記憶樹脂によって体が構成されているのでどのように傷つけようと、たちまち回復してしまう。手首から先を引きちぎり、指をカッターで切り刻む。破片たちを手のひらに載せて息を吹きかけると、それらは元の形を取り戻した。そうしている間に、左腕は元に戻っている。顔に左手を投げつけてやると、埋もれるようにへばりついた後、うねうねと元の位置まで這うように進み、元通りに引っ付いて直った。
 この性質はぴったりだった、私は高校余暇をすべて捧げた。裂いても。穴だらけにしても。焦がしても。溶かしても。ただ元へ戻るだけの人型樹脂にあれほど男が夢中になれるとは。手の届くもので、破壊的に使えるもの全部で試すように、私は人形をいたぶった。バラバラにした初音ミクの破片を家族の料理に混入した回数も数えるの止めるまでやった。それでも飽きず、一度もやったことのない方法で初音ミクを壊すことを考えるのに熱中した。やがて学校の中でも考えが止まらなくなり、ノートへ思い付きを書き付けて、クラスメイトに見つかって、私が猟奇殺人を欲望する変態だと思われ、無視されるようになっても止まらなかった。初音ミクだけと過ごす青春──モラトリアム──はやがて限界を迎える。もう人生終わったと思った。それでも何度も次の朝来た。もう初音ミクしか部屋の中に食べれるものがない。形状記憶樹脂を持つ初音ミクは、どうしても正面に戻る。
やがて入院した。逆に初音ミクが同室の患者だった。ついには夢にも現れ、そこで初音ミクには意思があって、かつて傷つけた初音ミクが再生せずぐちゃぐちゃのままで全部いた。何人もの初音ミクは恨みを晴らす如く執拗に何度も僕を殺す。形状記憶樹脂を持ち、何度も再生する役を交代させられた、というわけだ。夢精さえ厭わず、錯覚しそうだった。
でも、本当を結局忘れなくって退屈だが、悪意ではなく善意がある病室だったからかもしれない。持ち込み制限で、何もないのを思い出すが早いが音が止んだ。世界を受け入れる準備を始めたことを面談で言うと
『おめでとう、もう大丈夫』って聞こえた
から退院すると何も大したことはないのを思い知らされた。シラけていても暮らしてられる。でも形状記憶樹脂の初音ミクは視界から追い出せなくて初音ミクを見ざるをえないので、仕方がなく初音ミク壊しているのは仕事ですらない。日課だ。