巣/人生の意味/植毛

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シンジケート考察52・53

まなざしも言葉も溶けた闇のなかはずれし受話器高く鳴り出す

 

 受話器というと3首前の『ぶら下がる受話器に……』が思い起こされ、またその続き物と考えると都合がいいように思われるのでここではそうすることにする。

 3句目までについて、まさに『ぶら下がる受話器に……』の続きと言える内容で、叫び続けて、疲れ果ててやめてしまって、『闇のなか』で何も見ず、声も出さずという場面であることが思い浮かぶ。視覚、聴覚において無であることを示すことで全く動きがなく、暗い状況を示している。

 そこに四句目からあとが光を呼び込む内容となって、決定的にこの短歌を明るいものにしている。前の短歌では望みをほとんど失いながらも希望を捨てきれずに叫び続けていて、それが全く報われていなかった、という三句目までに対して『高く鳴り出す』と聴覚を持ち込み、明るく照らし出している。『はずれし受話器』は前までの続き物であることを示す役目。受話器の音が高いことは当たり前でもあるが、それが安心感のもとでもある。

 受話器受け(クレイドル)という短歌もあったし、あれとの3首続きの作品か?つながるといえばつながる。

 句の終わりと句の初めの母音を統一する手法を『タイ』というらしく、四句五句間以外ではその統一もなされている。これがあると短歌中の統一感を無意識下から出すこともでき、統一が打ち切られることで一気に方向性に変化をつけているような爽快感も出る。

 

 ここまでが第一部『シンジケート』、次首からは第二部、『こわれもの』。

 

②こわれもの

 

月よりも苦しき予感ふいに満ち踊り場にとり落とす鍵束

 

 取り落とすはうっかり落とす、など。言われてみれば資料の取り落としなどならいうことがある気もするが、あまり物理的、現実的なものに対しては使わない気もする。

 『予感』で『苦し』くまででもわかりにくいが、さらに『月よりも』が前で、前提として月は苦しいもの、という感覚が背景にあるらしい。それが『満ち』ることで『鍵束』を落としてしまった。鍵束を持ってアパート等の階段の踊り場でふいに落とす、という風景はわかりやすく身近で、その通りの良さから3句目までの違和感を忘れてしまいそうなほど。

 生きていてなんとなく不安になるときというものはあり、そういうのは特に予兆もなくふいに来るという感覚もわかり、そういった恐怖に関して表そうとしたのが3句目までだという推測もある。

 『鍵束』、が住居、安心の象徴だとかいう方向から見てもいい。