手紙魔まみ感想235・236
いくたびか生まれ変わってあの夏のウエイトレスとして巡り遭う
『生まれ変わって』で間接的に死が歌われているようで、全体として明るい印象を受ける。『いくたびか』『生まれ変わって』『ウエイトレス』は繰り返しの効果だが、『巡り遭う』が全体を肯定的にまとめているのだろうか。繰り返しがあり、同じことと違うことをやっていくことを肯定的に歌っているような印象を受けた。
歌集がまとめに入っていることも感じの良さに繋がっているのかもしれない。
「繰り返し」「前向き」
お替わりの水をグラスに注ぎつつ、あなたはほむらひろしになる、と
前歌からつながっているような歌。『お替わりの~』というウエイトレスの仕事をしながら、『あなた』を『ほむらひろし』と呼んでいる。まみは穂村さんをほむほむと呼んだりしていたので、屈折しない呼び方になるのはまみの成長を表すようにも見えるし、生まれ変わって巡り遭った相手として誰かをほむらひろしと呼んでいるのかもしれない。『になる』というのがかなり意識的な言葉であり、人が誰であるかを決める能力を持つものとして自分をとらえていることが、強さのようなものを出している。
「成長」
手紙魔まみ感想231・232
もう、いいの。まみはねむって、きりかぶの、きりかぶたちのゆめをみるから
『もう、いいの。』というあきらめ、『ゆめ』へ向かうという逃避として読んだ。『きりかぶ』に『たち』と付け直していることから、人格を認めているようにおもわれ、人間のいない空間で切り株と戯れるという『ゆめ』にあこがれているのだろうか。全ひらがなも幼児退行、逃避に関連した技法であるように思う。
「あきらめ」「逃避」
天沼のひかりを浴びて想いだすさくらでんぶの賞味期限を
『賞味期限』は現実的な障害物であり、そのことを『想う』のは現実と向かい合っていく気持ちの表れととられる。思い出すではなく『想いだす』な点には注意を払っておきたい。『天沼』と『さくらでんぶ』があまりなじみのない単語で、そこからイメージを広げさせるのが困難。味などより外観を重視した食材?の現実性?
「現実」
手紙魔まみ感想229230
「速達」のはんこを司っている女神がトイレでうたっています
「女神」とはまみ自身だと思われる。「つかさ/どっている」と漢字の途中で音が切れることもこの発言が本気ではないことを暗喩する効果だろう。自分を女神に例えたり、トイレで歌うという大胆さ、テンションの高さがここでのメインテーマだと思われる。『「速達」のはんこ』をどう読むかというところでは、大胆すぎてテンションが振り切らないように適度にみじかで大したことないものから選んだのだと考えた。
「テンション」
なんという無責任なまみなのだろう この世のすべてが愛しいなんて
こちらも大胆さがテーマになっているといえる。すべてのものへの愛情、肯定であり、前置きとしてそれは「無責任」さでもあるという自己批判が置かれている。それでもここで重要なのは大胆な告白にいたる彼女のテンションの高さだろう。何かに例えることなく、自分へ正確に言及し、「すべて」もごまかすことなく言い切るのは、とても大胆であり、そこがテーマだろう。
「愛情」「大胆」
手紙魔まみ感想233・234
一九八〇年から今までが範囲の時間かくれんぼです
まみのモデルの人が現実で生まれたのは七四年らしい。すると八〇年は小学校入学辺りでキリがいいのでそのように考えておく。
『今まで』が『範囲』なので今からは違うと見られる。小学校辺りから人間関係が複雑化して『かくれんぼ』状態だったが、そういうことはやめるということだろうか。つまり、本心をこそこそさせるのをやめて、正直にやっていこうということで、この詠もやっていこうの系統であると読むことができる。
「これから」
玄関のところで人は消えるってウサギはちゃんとわかっているの
『ウサギ』の詠。ウサギの視点に立とうとしているが、『ウサギ』の呼称からまみの視点ではあるといえる。
ペットのウサギから観ると、確かに玄関の外での飼い主は謎であり、消えるようなものである。自身が外にでられないことなどへの諦めも混ざったような表現で、正確ではないが、把握はしているのではないか、というまみからの推測が詠にされたものといえる。『ちゃんとわかっているの』といいつつも正確ではないところが面白味なのだろうか。
「認知」「正確」
手紙魔まみ感想227228
夜が宇宙とつながりやすいことをさしひいても途方にくれすぎるわね
『さしひいても』前までの前提も実感に逆らい、破調もあいまって不確かで分かりづらいものになる。一方、『途方にくれすぎるわね』は理解の効く感情であり、前半部のわかりにくさがこちらのわかりやすさを強調する。
「不確か」「途方にくれる」
窓のひとつにまたがればきらきらとすべてをゆるす手紙になった
窓のひとつにまたがればまでの前提も実感に分かりづらく、破調があるということで前歌と共通する。『すべてをゆるす』がこの歌のメインと思われる。『すべてをゆるす』こと、または『手紙になる』ことが『まみ』にとっての願望、テーマだったのかもしれない。
『きらきらと』も光や星を連想させ、前歌とのつながりを思わせる。
「願望」