シンジケート7・8
泣きながら試験管振れば紫の水透明に変わる六月
試験管を振って水の色の変化を観察する実験は滴定だろう。水の酸価の変化を確認できる。
六月といえばじめじめとした梅雨というイメージがある。この短歌も、雨ではないものの水があり、六月から紫という色がアジサイを連想させる。『泣きながら』の暗い気持ちが『透明に変わる』ことで少しでも気晴らしになったのでは、ということへ繋がるさわやかさがある。
限りなく音よ狂えと朝凪の光に音叉投げる七月
朝凪は海岸において発生する、陸風と海風の交代が起こる朝方に発生する無風状態。音叉は叩くことで一定の高さの音をだす枝分かれした金属の棒状の道具。
初夏、夏のイメージのする七月。朝凪は海に関連する語で、夏らしさが出る。そこへ音を出す器具、音叉を投げ込んでいるという。音叉は音を鳴らす道具だが、音は低温しか出ないため、楽器としての用途で用いられるものではなく、調律や物理実験などに使われるものである。凪という瞬間的に発生する異常状態へ放り込むことで、その音に変化が出ることを望んでいるようだ。『狂え』という否定形からもその必死さが読み取れる。
実際にはこんなことをしても、変化などないことはこの人物はわかっているに違いない。また、例え音が狂ったとしても、それが何の利益にもきっとなるはずもなく。音のような全世界に影響するような変革を起こしたいが、どうしようもないことへの焦りが衝動的に噴出したような短歌。
今日の2つとも登場人物が一人ですね