巣/人生の意味/植毛

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シリーズ①

100%フィクションの小説です。④前後まで書くつもりでいます。

 

 

 新聞を見て驚いた。慌てて財布から取り出したそれは、気まぐれに買った宝くじ。何度も何度も照らし合わせ、落ち着くまでの、キリが無いほどの確認を繰り返す。でも、確認するたびに興奮は増したから意味が無かった!この番号に当選者の番号と一致していない箇所はない!確か銀行で引き替えるはずだ!

 銀行には利用者がいなかったから、吸い寄せられるように窓口へ踏み込む。鞄から財布を取り出し、財布からくじを引き出そうとするがそこでくじが見つからない。あれ?鞄をひっくり返しても何も入っていないのに!忘れたはずが無い!玄関でも、階段でもそれは確かめて、最後に確かめたのは自転車置き場だ!だから今手持ちにないのは走行中に落としたからだ。それが分かったけど今から来た道を探したところで絶対に見つからない。実質ゴミにしか見えない紙切れは誰に顧みられる事も無い。血の気が、今までに味わったことのない程急速に引くように感じられ、目を開けても閉じても視界が真っ白から変わらなくて、

 

 本当に目を開いたことに気がついた。デジタル時計を確認すると16:18。いつもより少し早いが、二度寝するほどの余裕はない。作業着と共通の出勤着へ着替えればそれで準備はおしまいであるにしても、弁当を作り置いてくれたから、コンビニに立ち寄る必要が無くなるとしても。寝るための部屋から、金を得るための場所へ向かう。

 真面目に作業していたはずなのに、脈絡のない確信に不意に襲われることもある。私はそのような天啓によってあの悪夢と相関関係があるものとして初音ミクを定めるに至った。前触れや論理の類は一切発見されなかったが、目を覚ましてから胸でわだかまっていたものが、初音ミクを見なくなってしばらく経つことを思い出したとたんに解消した。それらを連関していると見なすことにすると、気持ちは不快にそのまま負のかけ算をするかのごとき振れ幅を示すよう。夜勤何するものぞとの昂ぶりに、顔面が奇妙に歪むのを抑えようとしてますます奇妙になるところを上司に注意されるかと思った。

 気分が昂ぶってもやはり体感時間はいつもの通りにノロノロと進んだ。それでも、進むからには終わるのだ。仕事場から退けて、帰りの道すがらにスマホ初音ミクを検索する。初音ミクに関する雑多な情報の前にすると、自分の欲望が何だったのかあやうく忘れるところだったが、関連キーワードから「初音ミク イラスト」と誘導されることで思い出す。それをタップして、pixivへ跳んだ。膨大なファンアートを眺める。細かに書き込まれたものも、シンボリックなものも、俺でもかけそうなものも見つかる。実力も画風もまるで統一がないけれど、それは同じく初音ミクを書こうとしているはずなのだ。だから私は、それらを見ることでわき上がる感傷は自分のもので、初音ミクよりもそれを上等に代替する何者かがあることを錯覚した。

 唐突に自覚された思い込みが相応しかったことなど無いではないか。それはいつも通りの予定調和。それらの大切ではない掠り傷とは裏腹に、これが悪夢への正しい対処であることの確信は覆せない形でまたある種の傷と遺されるかのようでもあった。脳内に。だから私は、それに対処せざるを得ないが、それは発見というよりも常識で、機能まで気がつかなかった恥ずかしさで頭がいっぱいになってから丁度いいサイズになる頃に寝屋に到着していた。

 適切に支度して眠った。明日も生活があるから。