巣/人生の意味/植毛

短歌について/その他サブカル色々/男、ほぼ学生、誕生年1994/利己翔とも/ツイッター https://twitter.com/kakeruuriko?lang=ja

習作 1

丁寧な小説を書きたいな~と思って極端なことが起こらない話を書こうとしました。未完だけどモチベーションはある。こういう雰囲気の方が自分を晒す感覚があって怖いんだ。いいじゃんか別に。

 

 

「なぜ、男と女がいるのだと思う?」

「現実にいちいち理由なんて無いでしょう、言葉から宇宙が発生したわけじゃないんですから。『光あれ』みたいな」

女と男が話しながら歩いていた。下校中なのだ。他にも数人のグループがまばらにあり、いずれも同じ方に進んでいる。ともかく、女の名はハリ、男の名はオキと言った。ハリとオキは読書仲間で、読んだ本の感想などを言い合う内、賢明ならば喋らないことを好んで話す仲になった。だから、そういう話をするのだ。

「けれど、雌雄同体の生物より雌雄異体の生物が複雑じゃない。雌雄同体のままじゃ、複雑にはなれなかった」

「そういう意味なら、生殖のせいなんでしょうね。複雑な出来事ですから、科学技術の未到達点だ」

オキは科学のことが嫌いだった。この頃の子どもにはよくあることだ。世界にはすべきこと、避けるべきことがあって、しかしそれは科学でも、倫理や成功でも明らかにならないのを直感していた。嫌いなこと程詳しくなってしまうのだ。

「だから、人々はずっと知りたがった。人はわからないことの存在が、たまらなく不快だから」

対して、ハリは自由に生きようとすることが自由に生きると言うことなのでは無いかという考えに賭けていた。何も拒まず、全てを求めることが、自分の可能性を信じることの実践だと信じて。

「正解しなくてもいいから、理由が知りたいってことですね。それでハリさんの答えは?」

「いくらか思いついても、納得できなくてね。だから私は本を読むのよ、色々なヒトが、どう納得したのか知りたくて。でも、本当に誰も彼も、こんなことで納得できていたのがなぜなのか分からない」

「実際、納得するための努力ってものがありますからね」

やや先を進む、ハリの歩く速度が緩む。小柄なオキに比べると、ハリは学年のこともあって大きくて速い。歩くペースの決定権を持つ彼女は道路と信号の状況を確認し、信号を急いでわたろうとすることが会話を続けることを妨げるのを予測して速度を調整した。しかし、その気遣いへの注意で会話のテンポが遅延し、差し込むべき言葉を見つけ損ねた。だんまりを避けて「そういうことよ」と返したが、オキもその話題を深めようとはしなかった。前科があるのだ。赤信号に歩みも停まり、気まずい沈黙が流れようとしたところで、

「それで、いつになれば私は貴方の部屋に上げてもらえるのかしら」

とハリが言った。何度も繰り返された要求には、儀式的な意味合いすらあるので、もちろんオキはなんの感慨も抱かないで断りを入れられた。

「そういうことはしないんですよ。そういうのじゃない男女は。僕はちゃんとしていきたいし、ハリさんもある程度はそうなんですよね?」

オキはそういうつもりでありたかった。そう振る舞いたかった。身体が望んだままに行動するのは人間じゃないみたいだ。何度も繰り返した話題で、結局同意できない一線を確認することに終始した。つまり、これはからかいなのだ。セクハラともいうのかも。

「そう」

意味の込められていない、ただの応答だった気がした。「そうね」だったのかもしれず、どちらでもいいと思いたかった。本心はどちらだったか気になって仕方無く、またそういう心の働きが許せなかった。

「私は──

ハリがさっきより、今日のどの発言よりもはっきりと喋ろうとしたとき、信号が青色になった。オキは率先して横断歩道を進み、ハリは発言を中断した。オキの決断的な歩みは逃げ出すかのようで、会話はしばし中断されたが、やがて大型歩道のための信号がオキの逃亡を終わらせた。

「そんなに嫌だって言うのが、私にはわからないの。貴方といて楽しいのよ、私は」

「僕だってきっとそうですよ。けど、ハリさんと僕では、バランスがとれないじゃないですか。限度が」

この辺りのも数回深めようとしたことがあった。要するに美意識の問題だと言うこと、言語化しずらいこと、それらを明確になってもすり替えは出来ないことなどが判明し、どうしようもなさそうだった。

「そうね」「そうなんです、きっと」

ハリはオキの肩を引いて、こちら側を見させた。オキは、ハリが何かを取り繕うとしているのを直感した。図書室の出口で、初めて話しかけられたときもこの顔だった。だから、こうして話しかけられるのは二度目なんだ。

「貴方はただの友人。私もそれで不遜はないの。だからこんな報告不要だけれど、やっぱり言うべきらしい気もして。ええ、私は明日デートをするの。姉の友人らしいけど、明日初めて会うんだけれど」

「あー、そうか、です」

オキは目を回しそうになり、同時に何もかもが疑わしいように思えた。何でそんなのやってるんだ?自分が何一つ自分を思い通りに出来ないこと、自制しているつもりで得意になっていたことの愚かさで締め付けられている気がした。頭に血が上って、顔色が変わっているかも知れないが、顔を背けられない相手がいる。反応のテンポは遅らせられない。

「ハリさんの言うとおりですよ。僕に断りを入れる道理なんかどこにも。別々の、ただの友人ならそんな深入りはしないもの」

「まあ、そうなのよね」

オキはハリから目を逸らすべきではないと思っていた。ここで逸らすと、少なくとも今日はもう顔を向けはできないと。あるいは、一生が掛かっているような気もする。

「私も道理に合わないことだとは思ってて、けど言うべきか言わざるべきかの悩ましさが整理できなくて。変な負担ごめんなさい」

どちらともなく歩き始めた。そのために顔の向き合った状態は解かれた。

「去年までなら、なんの悩むこともなく了承してたでしょうね。きっとそれを姉も不審に思ってる」

言い訳するようにハリは言葉を続けた。明日の予定よりも伝えたかったことかも知れない。

「誤解するようなことはないんだって説明しようとするのもおかしくて、不義理なことなんて何もなさすぎてかえって、ね。姉の友人ということは大学生よ。去年まではこの県で住んでさえなかったような」

「そういう人と会うのがハリさんの趣味なんですから。なにもおかしくはないですよ」

ハリの、本を読むことの延長で人と接することのできる性質をオキは尊敬していたし、羨んでいた。ハリから、どれだけ素晴らしいものを受け取ったのか、そしてそれは、もちろん自分だけのものに限定されるべきではない。オキは、妥協すべきでないことが分かった。

「がーじゃあない、楽しんできてください。ハリさんの話してた、理由が聞けて良かったです。面白いことありましたら、月曜に聞かせてくださいよ。じゃあ」

最後の方はこういう話をして、別々の路線で帰るために別れた。実際、最後にオキの心の中にあるのは清々しさですら会った。焦りをフォローする手際が上達しつつあることを踏まえて。