手紙魔まみ感想182・183
星の夜ふたり毛布にくるまって近づいてくるピザの湯気を想う
五句目がかなり無理やりに字余りしている。その要因になるのが『ピザの湯気』で、不自然さが高い。存在はするだろうが、ピザの湯気を気にすることは実際的なことではないにもかかわらず、語感をいびつにしてまで言及したかった。
直前まではべたに詩的であり、よくありながらも素敵なシチュエーションだったものを、普段気にすることもなくありふれて意味のなく詩的でもない上に語感まで合わない物を置く。『星の夜』よりも『ふたり』よりも『毛布』よりも『くるまって』よりも『ピザの湯気』はこの歌のなかだけではパワーワードになれるが、本歌中以外で『ピザの湯気』がパワーを獲得することはないだろう、そこへ運命性や独自性が生まれ、独特の価値と言えるものになる。ただ異質で不恰好な悪目立ちではなく、何らかの一瞬の輝き、肯定的価値がここにだけある。
「焦点」
なめとって応急処置をしておこう、うなずきあって舌を準備す
『舌なめずりで会話をするの』というようなのが前にあったことが思い出される。それに比べると『なめとって』という舌の使い方は常識に近づいている。それでも正当な『応急処置』としては正しくないということが現実との違和感で、この歌のポイントになるだろう。
会話言葉の後に『うなずきあって』という様子は、普通に会話しているのだなあということが分かり『舌なめずりで会話』などと言っていたころから常識を身に付けつつあるのだなあとなる。繰り返し続けるだけではなく、変化しつつあるといえる。
前歌から順当につながっているならば毛布の中にいて相手はいもうとだということになる。家族で同性というのは性的ニュアンスとかけ離れた位置のものである。かけ離れたあるいは類似した語の並びに風流を感じることは詩の読み方の一種。
「会話」