巣/人生の意味/植毛

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シンジケート感想177・178

薬指くわえて手袋脱ぎ捨てん傷つくことも愚かさのうち

 

 『「く」すりゆび』『「く」わえて』と、冒頭から「く」によって韻が踏まれている。『てぶ「く」ろ』『傷つ「く」』というところにも存在。

 全体的に攻撃的な語が多い。『脱ぎ捨てん』『傷つく』『愚かさ』のあたり。『くわえて』『手袋』はやや優しみがなくはないといった気もするが、程度は低い。

 手袋を脱ぎ捨てるという行為を行うことを述べ、その動機となる理由を続けている。わざと傷つきたく、それが愚かであると理解しながらもそうしている、というのだ。

 手袋は自分の体にかなり近い形をした衣服である。それを『くわえて』脱ぎ捨てるというのも体を噛むような自傷衝動を連想させるが、『くわえて』は柔らかな印象がある語の選択だ。

 『脱ぎ捨てん』の『ん』はまず口語では使わない言い方。

 

 

 

 

ちんちんをにぎっていいよはこぶねの絵本を閉じて眠る雪の夜

 

 はこぶねは漢字にすると方舟、箱舟、箱船というように揺れがあるが、意味としては特に違わない。大洪水の神話などに登場するものとしての知名度が高い。代表的なものは旧約聖書ノアの箱舟だろうが、各地に類似の神話が存在する。

 『はこぶね』の平仮名表記は『絵本』に合わせるところが大きいだろう。『ちんちん』はペニスの幼児語であり、ここでも幼児に向けての発言だろう。寝る前の絵本として『はこぶねの絵本』を聞かせたところ、おびえてしまった。そういったときにこの幼児には癖として『ちんちんをにぎ』る癖を持っている。普段はやめさせるべき癖として注意しているのだろうが、この作中主体である人物は今回はそれを許可することでなだめようとしている。実際の効果としては握ること自体よりもそのおかしみのあるものいいから安心感を与えようとしているのであろう。夜に絵本を読み聞かせる状況からは、この人物は幼児の母親であると想像される。雪は方舟神話の洪水に対比物でもある。雪害というモノもあるにはあるが、ここでは別段激しいものではなく、むしろあたたかな部屋の中を連想させる効果になっている。

 この歌のみから読み取っていくとこのような親子が浮かんでくるが、他の歌との関連から見ると、こういった親子の出現は突然である。男女の組み合わせとしてはカップルが多いという傾向のある連作中に唐突な親子。実際は親子ではないのではという推測が起こる効果が出る。