巣/人生の意味/植毛

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【R15】小説

メンヘラ小説です。

字数丁度そうだし投稿しようかなと思っていた時期がありました。

メンヘラって怖いですね。

自傷や自殺を美化する内容はやめて」と規定にあったのでやめといてよかったなと思いました。

 

手直しするかもしれません。

 

 

 

私が一番

 

これはとある姉妹のお話。 姉が美咲で妹が春香。3歳離れの兄弟です。美咲は小学校のころから成績優秀でした。高校受験の際、両親は彼女に都市のほうにある寮制度の進学校に進学するよう勧めたのですが、彼女はどうしても家族、より正確に言えば、彼女の妹と、決して離れたくないと思っていたので、地元の高校に進んだのでした。

美咲は妹のことが大好きでした。

「妹と一番長く過ごしているのは私」

「妹のことを一番知っているのは私」

「妹を一番幸せにできるのは私」

こういった言葉をいつも彼女は言っていました。家の中でも、外でも、友人にも、両親にも、妹自身にも。彼女はずっとずっと妹と暮らしたいと思っていました。それが人生の希望だったといっても過言ではないでしょう。

1年の浪人後、高名な都内の国立大学に進学しますが、浪人中に精神を病み、メンタルクリニックでお薬をもらうようになりました。大学でも孤立気味でした。除け者、というわけでもないのですが、自然に輪に入っていく、ということができないのです。当然、恋人もいませんでした。

それでも寂しい、という気持ちはそれほど強くはありませんでした。彼女はいつも妹を想っていましたし、家族と離れるとその傾向はますます強まったのです。

春香は対照的に、朗らかで活動的な娘でした。姉のことは好きではありましたが、自分と将来に関する発言のことは冗談だと思っていました。離れて生活するようになると、姉のことを考える時は減っていきました。

妹は社交能力も高く、恋人もいました。部活のマネージャーの青年、太郎です。太郎と妹は昔馴染みで、家族ぐるみの付き合いがあり、親同士も公認するお似合いのカップルでした。妹はきっと将来は、彼と結婚するんだろうなと思い始めていました。

「姉さんは誰か結婚したい人はいるの」

尋ねる春香。

「結婚なんてするわけないじゃないの、私はあなたがいればそれだけで幸せよ」

こう姉は答えますが、

「ちょっと、私は真剣に聞いているのよ、まだ誰かと付き合ったりとかしたことないの」

「何回も言ってるじゃないの、姉さん、あなた以上に好きな人はいないわ」

「私は姉さんより太郎さんが好きよ、結婚は私のほうが先になるのかな」

そういわれた時の美咲の目がとても悲しげになったように、春香には見えました。しかし、次の言葉はとっても快活に放たれたので、きっと気のせいだったと思うことにしました。

「そうかもね。そしたら姉さん、とっても嬉しいわ」

 

少しづつ彼女はおかしくなりました。

 彼女は決まった時間に眠れなくなりました。メンタルクリニック睡眠薬をもらうようになりました。家族と会話することも少なくなりました。彼女はおかしげなものを調べ始めました。けれど、これらを詳細に春香が知ったのは、事が済んでからでした。「春香を心配させないでね」と美咲が両親に釘を念入りにさしていたからです。聞いたのは、病院に行き始めたことぐらいでした。

 そして事件が起こりました。その前日、二人は旅行に行っていました。その帰りのことです。美咲は春香に睡眠薬を盛りました。そして、彼女自身もしっかりと眠りました。

 春香は目が覚めると、真夜中の屋外でした。「車の中で寝ていたはずなのに、おかしいな」と思いました。

 自分の真下には、何十にも丸が、棒きれで校庭の砂を引っ掻くようにして描かれています。円と円の間には赤いもので漢字が描かれているようです。動くことができません。ロープを使って横を向いた状態で地面に縛られているようです。手首同士でくくりあわされて、腕を使うこともできません。目の前には美咲がいました。月明かり以外に光源はなく、それ以外の情報はさっぱりつかめません。声をかけようとしましたが、のどがかすれて、まともな音は出せません。

美咲は春香が目を覚ましたことに気が付くと、服を脱ぎ始めました。下着や靴下はつけていなかったようです。すぐに真っ裸になりました。不思議そうな春香の視線を察した美咲が答えます。

「私の薬を飲んだからよ、今は全然眠くないでしょう。あなたにはこれを見ていてもらわないとだめなの」

 まったく意味が分かりませんでしたが、とにかく取り返しのつかないことになりつつあることを直感しました。それでも、姉を見つめる以外のことはできませんでした。

「ここは小学校よ、私たちの通った」

 美咲は、そんな妹の様子を、それほど気に留めないようです。想像通り、という風に。

「わたしは今から死ぬわ。でもただじゃ死なない、あの世になんていかない。あなたに乗り移るの。あなたが女の子を産んだら、私だと思って頂戴。あなたを絶対に幸せにして見せるわ。」

 美咲が冗談を言ったことなんて、春香の記憶には全くありません。彼女は本気でそうするつもりなんだ、と思いました。

「こうすれば、きっと大丈夫よ、数年後にまた会いましょう。」

 

つめを器具で引きはがしました。まずは足のつめです。左足の小指、中指。右足の人差し指、薬指。手のつめ、右手の小指、薬指、左手中指。

「わたしが一番あなたを幸せにできるのよ。だけどそれをあなたはわかってくれないみたいだから。ずっと一緒に暮らすにはこうするしかないの。」

顔からは表情が読み取れません。体中に針を刺しました。左腕、左目、右耳、左足、右腕。指を切り落とします。痛みから声をあげそうになりますが、必死で声を押し殺します。

「わたしは薬を飲んでるから、見た目ほどは痛くないの、でも、しっかり見てね、この痛みの欠片だけでも感じてね、その恐怖が、あなたの中に私を宿らせるの」

春香は、美咲の腕にかなりの注射跡があることに気が付きました。クスリって普通に処方されるものだけではないのでは、と春香は不気味になりました。なかなか大きなナイフを手に取りました。指を切り落とし始めました。左手中指第一関節、右手小指第二関節、左手薬指第一関節。顔を苦しみにゆがめました。

「順番を間違えてもだめだからね、気を付けないと」

あんまりなので、これは夢なんじゃないかと思いました。

「太郎さんもよんだのよ、あなたのパートナーも近くにいないとね」

自分の髪の毛をつかみ、思い切り引き抜きました。それをばらまいてから、春香に近づいてきました。

「ごめんね」

そういって美咲は春香から一本髪の毛を抜きました。

「痛っ!」

春香が持っていた、夢なのでは、という淡い期待が消えた瞬間でした。確かに髪を引き抜かれたという痛みが頭にしっかりと感じられます。

 美咲はそんな春香の気持ちには気づかずに、髪をくわえて飲み込みました。

「もし、わたしともう会いたくないなら、太郎さん以外の人と一緒になればいいわ。でも、これは太郎さんが憎くてやってるんじゃないのよ、勘違いしないでね。私も太郎さんは嫌いじゃないわ、あなたの好きな人ですもの。」

 美咲は春香を抱きしめました。春香は泣いていました。美咲が怖かったのです。なんでこんなことになったのか、すべてが突然すぎました。昨日までは、姉と楽しく温泉地で過ごしていて、大学受験頑張ってねって言ってもらうような日常を生きていたのに。

「あなたと過ごしたときはみんな覚えてる、全部楽しかったわ」

「一番を決めるとしたらね、サンタクロースの話よ、あなたは覚えてる?そのとき、あなたは小学3年生だった、あなたが母さんに『サンタなんかいない』って言って怒ってたの、それをあたしがなだめたの」

一気に早口で話していました。この時に何を言うか前から決めていたのでしょう。春香は全く忘れてしまっていた出来事でした。

「でも、あの時の私は、本当に信じてたのよ、おかしいでしょう、ずっと秘密にしてて、ごめんなさいね、あなたのほうが賢かったのよ、できたら、あなたは子供にウソなんて、つかないでね」

悲しげな声でした。そのとき、懐中電灯で二人は照らされました。男性の声がしました。

「おい!そこにいるのはー」

「太郎さんが来ちゃったわ、もう時間がないのね」

 美咲は春香を放して、元の場所に戻りました。そして、そこにおいてあったナイフを手に取りました。

「それじゃあ、何年後になるかわからないけれど。きっと56年かしら。愛してるわ」

美咲は自分の首の裏側にナイフを刺しこみました。すぐに引き抜いて、足元に丁寧に置きました。

「ぇさん、姉さん、止めて!」

やっと春香は声を出せるようになりました。やめて、やめてと繰り返します。もちろん、それは遅すぎました。

美咲には聞こえませんでした。気にせず、次の作業に入っています。刺した針を抜き始めました。最初の2,3本は丁寧な風でしたが、あとからは雑になりました。腕や体を振り払うように針をめちゃくちゃに落としています。4秒ほどそうしていましたが、力が抜けたようにばったりと倒れ、動かなくなりました。

「美咲さぁーん、春香ぁー」

 太郎によって春香は縄をほどかれました。美咲は死にました。

この後も、春香と太郎は付き合っていました。しかし、太郎はどうしてもアフリカの子供たちを救いたいという子供のころからの夢をかなえるため、春香と別れてアフリカに旅立ちました。新種のマラリアにやられて死んでしまいましたが、彼のグループをはじめとする第一感染グループを中心に作られたワクチンは多くの人々の命を救いました。春香は結局、ある警官と結婚しました。子供は3人作りましたが、みんな男の子でした。太郎さんと別れたおかげで呪いは効力を発揮しなかったんだ、と彼女は思いました。しかし、実は彼はあの日に通報を受けて駆け付けた警官で、『それ』の有効範囲にいたのです。

 

クリスマスプレゼントは母親からよ、と言って渡しました。サンタクロースのことはその名を呼ぶことさえ、子供たちに禁じました。それが、『事件』が春香に与えた影響のすべてでした。