巣/人生の意味/植毛

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手紙魔まみ感想221・222

ドラキュラには花嫁が必要だから、それは私にちがいないから
 
 『私』の重要視ということが見られるが、ドラキュラの存在という前提の前提が架空ということで断定が拠り所のないものになっている、という歌。上の句は定型から曖昧に逸脱していて、架空性に上乗せになる。
 
「架空」「自己重要視」
 
 
 
わからない比べられないでもたぶんすごく寒くて死ぬひとみたい
 
 わからなかったり比べられないことを散々前までやっていたのでは、ということに今一度立ち戻り、正直に白状し、『でもたぶん』という曖昧であるゆえに正直な前置きの後に実際には見たこともやったこともない『すごく寒くて死ぬ人』という直喩。直喩も比喩であることを隠そうとしないという意味で正直と言える表現かもしれない。
 
「正直」

手紙魔まみ感想219・220

顔中にスパンコールを鏤
ちりば
めて破産するまで月への電話
 
 スパンコールは服などの飾りに付ける小銭状の金属らしい。
 『スパンコール』『月への電話』といった無駄によって『破産』することを目指している。自己破壊願望の系統だろうか。現実性は全く薄いため、そういった妄想をすること、程度にとどまるだろう。月は昔から憧れのような感情が向かったりするものでもあったということもあるかもしれない。
 
「無駄」「破滅願望」
 
 
 
なれというなら、妹にでも姪にでもハートの9にでもなるけれど
 
 『なれというなら』という受け身の姿勢と、他との関連を表す『妹』『姪』番号でしかない『ハートの9』といった語で、徹底的に受け身である。自分に対して冷めた目線で物を見ているのだろう。『けれど』としてそのような要望を受けることがないことも自覚している。
 
「冷静」「受け身」

ぼくと初音ミク

「やりたいことなら何でもやればいいのよ」
と大人は言うけれど、私は大人になれなかったのでやりたいことは何もなかった。小説を書きたいと思っていた頃もあった、でも私の描く者らに目的意識は存在しない様だった。ただ飯を食っては寝て、家から出ようともしない。やりたいことなら何でもよいと開き直ろうにも、握りつぶされてしまうので駄目だ。崩れカスを眺めていると眠たくなって、寝るのは飽きなくて悪くなかった。
 ここに初音ミクがある。電子歌手ではなく、初音ミクを模した1/1人形だ。精巧に絵を再現したような、それでいて三次元的に存在感に、違和感のないフィギュア。初音ミク屋をやっていたおじに、廃業の際に押し付けられた……実際嬉しかったが、気恥ずかしく言うタイミングを逃した。嗜好が知られたのかを不思議がる必要はなかった。年頃の男児にとって、初音ミクが優れた性の対象であることは自明なのだから。
 初音ミクの左腕を握り、力を込めてへし折る。彼女は最新の形状記憶樹脂によって体が構成されているのでどのように傷つけようと、たちまち回復してしまう。手首から先を引きちぎり、指をカッターで切り刻む。破片たちを手のひらに載せて息を吹きかけると、それらは元の形を取り戻した。そうしている間に、左腕は元に戻っている。顔に左手を投げつけてやると、埋もれるようにへばりついた後、うねうねと元の位置まで這うように進み、元通りに引っ付いて直った。
 この性質はぴったりだった、私は高校余暇をすべて捧げた。裂いても。穴だらけにしても。焦がしても。溶かしても。ただ元へ戻るだけの人型樹脂にあれほど男が夢中になれるとは。手の届くもので、破壊的に使えるもの全部で試すように、私は人形をいたぶった。バラバラにした初音ミクの破片を家族の料理に混入した回数も数えるの止めるまでやった。それでも飽きず、一度もやったことのない方法で初音ミクを壊すことを考えるのに熱中した。やがて学校の中でも考えが止まらなくなり、ノートへ思い付きを書き付けて、クラスメイトに見つかって、私が猟奇殺人を欲望する変態だと思われ、無視されるようになっても止まらなかった。初音ミクだけと過ごす青春──モラトリアム──はやがて限界を迎える。もう人生終わったと思った。それでも何度も次の朝来た。もう初音ミクしか部屋の中に食べれるものがない。形状記憶樹脂を持つ初音ミクは、どうしても正面に戻る。
やがて入院した。逆に初音ミクが同室の患者だった。ついには夢にも現れ、そこで初音ミクには意思があって、かつて傷つけた初音ミクが再生せずぐちゃぐちゃのままで全部いた。何人もの初音ミクは恨みを晴らす如く執拗に何度も僕を殺す。形状記憶樹脂を持ち、何度も再生する役を交代させられた、というわけだ。夢精さえ厭わず、錯覚しそうだった。
でも、本当を結局忘れなくって退屈だが、悪意ではなく善意がある病室だったからかもしれない。持ち込み制限で、何もないのを思い出すが早いが音が止んだ。世界を受け入れる準備を始めたことを面談で言うと
『おめでとう、もう大丈夫』って聞こえた
から退院すると何も大したことはないのを思い知らされた。シラけていても暮らしてられる。でも形状記憶樹脂の初音ミクは視界から追い出せなくて初音ミクを見ざるをえないので、仕方がなく初音ミク壊しているのは仕事ですらない。日課だ。

手紙魔まみ感想217・218

一年以上手紙魔まみにかかっているんですってね。ここまできたら「終わらせてやるからな」なのになぜ牛歩になってしまうのか。


アイスクリームの熱い涙を嘗めたがるおりこうさんという名のウサギ

 違うウサギが出てきて、多分実在しなくて、ウサギを比喩に出す勇気という方角からの意味を持たせることが出来る。
 『アイスクリームの熱い涙』が異常に実在しないものであって、少し前の『骨粉をなめなめ』の歌は異常に実在性があるのでつらいということが言えたと思う。


「実在」「ウサギ」


外からはぜんぜんわからないでしょう こんなに舌を火傷している

 内面では大変なんですよという奴である。わざとらしく言いづらい奴なので火傷に仮託しているが、どうせ精神的つらみも含んでいるのだろう。『こんなに』なんて見せびらかして、いやらしい!

「大変なんですよ」

手紙魔まみ感想215・216

まみ、いままで、めちゃくちゃだったね、ごめんね、とぼろぼろの髪の毛に謝る
 
 ちゃんとやって行こう、という気持ちを感じる。『めちゃくちゃ』『ぼろぼろ』というわかりやすい擬音があり、今までとこれからの違いが簡単で身近に描かれる様子が強い効果となるのは、散々に繰り返された「繰り返し」からの脱出として爽やかになるためだろうか。
 
「違い」
 
 
サイダーがリモコン濡らす一瞬の遠い未来のさよならのこと
 
 『~遠い』までは全て『未来』を修飾するためだけの語であり、意味面では重要ではない。『サイダー』が爽やかに、『リモコン』が日常にフォーカスを当てるようなものだと考えればいいだろう。
 その『未来』は『さよなら』の時刻を表すための語であり、この歌は『さよならのこと』がメインなのである。『さよなら』にともなう寂しさやら今後の気持ちなどがメインなのだろうが日常の中の一瞬であり、おそらくそれほど重要な相手ではない。その瞬間的な『さよなら』について未然に心を向けている。
 区切りの言葉であり、「繰り返し」からの脱出が「さよなら」で、今の時点から、遠い未来でも繰り返しの内で満足せずに新しい挑戦をやって行こうというつもりであり、この歌も「やっていこう」が中心にあるのである。
 
「脱出」「区切り」

手紙魔まみ感想213・214

未明テレホンカード抜き取ることさえも忘れるほどの絶望を見た

 

 初句が七字と読むとよさそう。

 『ほどの』とオーバーに言っているが、実際結構余裕があるのではないかと思う。今日日使わない『テレホンカード』を突然思い起こす余裕とユーモアがある、という方向で読み取った。定型を崩してしまう程度には焦りと『未明』という具体性を削ることが出来ないこだわりはあり、そこはリアリティ的効果を持つ。

 

『余裕』『リアリティ』

 

 

きらきらと笑みを零して近づいた、ゆゆ、プリクラに飢えていたのね

 

 ゆゆの様子。プリクラは何だかんだ生き残っているゲーセンのアトラクションという印象がある。言葉にすると昔っぽいが、技術が進歩し続けている気がする、詳しく知らないけど。

 遊びたかったのねーという見守りなのかもしれない。ゆゆが支配権を持っていたような冒頭からすると、関係性が変わったということを表している気がする。

 

『関係性』

手紙魔まみ感想211・212

熱帯夜。このホイップの渦巻は機械がやったのがわかるでしょう?

 

 やっていくのに対して、機械がやると自分の居場所がなくなるんだよなというのがありますが、うずまきはカタツムリを見ながらどうこう言っていたのがあって、それを繰り返しているということもある。機械的にきれいなホイップとキモチワルキレイだったカタツムリの対比に思いをはせたりしましょう。

 

「対比」

 

 

「美」が虫にみえるのことをユミちゃんとミナコの前でいってはだめね

 

 かたつむりってでんでんむしだけど特に虫らしい生き物でもないね。人の名前がたくさん出てくるけど初登場でよくわからない。固有名詞で女性だ。人の前で行ってはいけないことを覚えて人間はやっていくことを学習していく……